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表大雪南ルート縦走4日目 ~トムラウシ山-短縮登山口~

朝4時起床。十勝岳連峰の夜明けの絶景が見れるかと、とりあえずテントの外を確認。う~ん、微妙、何だか薄曇り。それにしても寒い、気温は体感的に確実に1桁に達している。すぐにテントの中に戻りストーブを焚いて暖を取る。写真を撮りに出ようか迷ったが、4時18分、意を決して着れるものは全部着て外に出る。空はさっきよりも晴れてきた。いい感じだ。二人のテントからはモゾモゾと動く音が聞こえるが、まだ寝てるかもしれない。景色が良ければ起しに戻ろうと誓い、南沼のテン場からオプタテシケへの縦走路向かう。ここを100mも歩けば十勝岳連峰の絶景が拡がる。ウソみたいに晴れてきた。二人のことはすっかり忘れて、更に150mほど歩いて南沼が望める標高1940mの岩場を目指す。丁度、夜が明けてきた。

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うつくしー...これは二人を呼びにいかねばと走ってテン場に戻る。「十勝岳がきれいに見えますよ。見に行きませんか?」とテントに向かって声を掛けると、「寒い」とか「スズさん、元気ぃ・・」など妙にテンション低い。とにかく絶景だということを伝えつつ、私も絶好のチャンスを逃したくないので「オプタテの縦走路にいますからねっ!」と言い残して再び戻る。しばらくするとshizuさんが眠そうにやってくる。でも景色を見て目が覚めたようだ。yahさんは待てども来ない。何やってるのかなと思った矢先、テントから出てくる姿を発見。到着する頃にはすっかり日は登っていたが、それでも満足してくれたようで南沼の手前あたりまで行って写真を撮っていた。

さて、昨日メカニカルシャッターが完全に逝かれたNIKON1だったが、陽気のおかげですっかり回復。動きのない風景や花を撮っている分にはメカニカルシャッターも電子シャッターも同じだが、やはりメカシャッターの音がしないと写真撮っている気がしない。液晶画面も復活してファインダーと両方使えるようになった。新たな症状として液晶欠けが発生したがそんなものは些細なことだ。一方、昨日好調だったGPSはまた結露したようで、電源が切れなくなり一晩中動きっぱなし。充電用の電池も底を着いたので今日の行程のどこかでGPSログが途切れそうな予感がする。

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テントはそのままに荷物のパッキングだけすませて、テン場でのんびりしたいというshizuさんを残して再びトムラウシ山に登る。先客が一人いたが早々に北沼方向に立ち去り、山頂には我々だけに...今日は正真正銘の360°で大雪独り占めだ。火口を挟んで向こう側にはニペソツ・ウペペサンケの上に綺麗な青空が拡がる。私はまったりしてお茶とお菓子を食べている。山頂で飲むお茶は本当に美味しい。yahさんは再び720°の動画に挑戦していた。

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石狩連峰のやや北寄りには謎の単独峰が見える。例によってyahさんも「あの山は何?」と聞いてくる。かなり存在感のある山でトムラウシ山に登るといつも話題になるが、結局いつも分からずじまいだ。北見富士という意見が大勢を占めるが標高1291mの低山がこんなに高く見えるものなのか...しばらくすると日帰り登山やヒサゴから縦走する人達で山頂が混雑してくる。やっぱり人気の山だ。あまり邪魔しちゃ悪いと思い、テン場に戻る。テン場では「北海道大学歩く会」のメンバーと話ができた。彼らも13日の悪天候の中、石狩岳からの縦走で沼ノ原分岐のあの笹薮を歩いたそうで妙に親近感がわき、お互いの労を労った。

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テントを撤収した後は早々に下山。トムラウシ公園を見下ろすエセ金庫岩(勝手に命名)からのニペソツ山も美しい。後はトムラウシ温泉ルートでは定番のナキウサギ観察をしながら下山を続け、コマドリ沢で昼食。

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その後は特に記事にするようなこともない新道の悪名高き登り返しと泥道が延々続く。新道にそびえ立つ白樺が青空に映えて癒されたので写真を撮ってみる。白樺の上にはトンボも飛んでいる。もう秋も近いなぁと思いつつ下山を続ける。それでもカムイ天上分岐付近から木道が二ヶ年計画(yahさん情報)で整備されつつあり以前よりは楽になっている。yahさんは目的地が近づくに連れ元気になっているが、私とshizuさんはペースが落ちていく。膝も痛くなってきた。この下りは本当に退屈だし全然終わらなくて大嫌いだ。

今歩いているトムラウシ温泉ルート、一昨日歩いたヌプントムラウシ温泉ルート、それに悪名高き天人峡ルートを加えて「表大雪三大酷道」に認定したい、いや俺が認定する!...そんなことを考えながら下山して行った。

おまけ

南沼キャンプ指定地(7:35)→トムラウシ山(8:10←休憩等→8:40)→南沼キャンプ指定地(9:15←テント撤収→9:55)→前トム平(11:40)→コマドリ沢(12:40←昼食→13:10)→カムイ天上分岐(14:40)→温泉コース分岐(15:25)→トムラウシ短縮コース登山口(15:45)

今回のあこの燃費:12.4km/L

表大雪南ルート縦走3日目 ~忠別小屋-南沼テン場~

朝4時30分起床。昨夜は高ぶった精神を落ち着けるために「柴胡加竜骨牡蛎湯」を飲んで寝つきは良かったものの、トタン屋根が強風でドンと大砲のような音を立てたのをきっかけに目が覚めて、それ以降はあまり眠れなかった。一応、外を見てみるが霧雨が降っている。昨日の雨でザックの中まで濡れ、乾いた予備の衣類がない中で進むのは危険で、予備日を使って停滞することも考えたが、ここで衝撃の事実を知らされる。shizuさんは予備日を設定していなかったようだ。何とまぁ悪いことが続くことか...南沼キャンプ指定地までの道はロックガーデンで迷い易く、2009年のトムラウシ山遭難事故の原因となった風を避ける場所も少ない。経験的に晴れるなら7時ぐらいに兆しがあるハズだが、最悪の場合はshizuさんにはルートが明瞭で安全性も高く、管理人のいる山小屋、公共交通機関も使える黒岳ルートから下山してもらうことも伝える。まぁ、何と朝から険悪なムードだろう。yahさんも微妙な空気を察知してルートの変更計画を色々と提案してくるが、着替えもなく晴れる兆しもない以上、南下ルートで移動するつもりはなかった。最終的には「命と仕事、どっちが大事だ!よく考えろ!!」と言うつもりでいたが、幸運なことに6時30分を過ぎた頃に小屋の外が明るくなる。時間は短かったが確実に雲が薄くなって来ている証拠だ。これなら行けそうだ。

さてもう一つの懸念事項は電子機器だ。GPSと携帯電話は一晩体温で温めて復活したが、カメラ(NIKON1)のほうは試しにシャッターを切ってみたら、メカニカルシャッターが下りたまま動かなくなってしまった。当然ファインダーも真っ暗だ。ダメ元で電源ボタンやシャッターボタンを繰り返し押していると、偶然、イヤな音と共にシャッターが開きセンサーが見えた。ミラーレス構造なら電子シャッターに切り替えれば撮影可能かもと試しに撮ってみる。撮れた!やった!! 相変わらず液晶画面は誤作動で使えず、ファインダーも曇ってフォーカスが合っているのかもわからないが、NIKON1の優秀なAFを信じて撮影するしかない。撮れるだけでもありがたいというものだ。

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7時40分。微妙に霧雨が降っているが、最初に空が明るくなる現象を確認してから複数回同様の現象を確認したので、それを信じて忠別岳避難小屋を出発する。忠別岳避難小屋分岐を過ぎ五色岳方面に進んだ辺りで五色岳の稜線が見えるようになった。振り返ると忠別岳も見えている。いいぞ。行ける。五色岳に着いた頃には、昨日悪戦苦闘した沼ノ原が見えるぐらいに天候が回復してきた。昨日スルーした五色岳でしばし休憩してから化雲岳へと向かう。天候はどんどん良くなってくる。途中のハイマツ帯ではトムラウシ山が完全に雲から抜けた。

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化雲平に入る頃にはすっかり晴れ、安心して「今日の私は役立たずになる」と宣言して、パーティから一人離脱して化雲平の花々の写真を撮りながらのんびりと進むことにする。昨日乾かなかった衣類もザックに縛って乾かす。化雲平の私のお目当てはエゾウサギギクとリシリリンドウ。他にもタカネトウウチソウ、エゾウメバチソウ、ヨツバシオガマの他、アオノツガザクラやハクサンボウフウ、ミヤマアキノキリンソウの大群落も見られた。ふと前を見ると先行していたshizuさんはもう化雲岳への登りに取り掛かっている。700m近く離れている。これはマズイと思いつつ、目的の花も撮れたことで上機嫌で一気に距離を詰める。そんなに二人を待たせることなく化雲岳山頂に到着。化雲岳は私が登山を初めてから表大雪で最初に踏んだピークで何度来ても感慨深い。二人には「化雲岩の右側から上に登れるよ」と事前に伝えてあったので、登って見たか聞いてみたら「無理!」との返事が...高所恐怖症の私はもちろん無理ですが、やはり普通の人でも恐怖を感じる高さでしたか(^^;。

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化雲岳で休憩した後は天沼を目指す。沼のほとりの木道に腰を掛けて昼食にする予定。途中、ヒサゴのコル近くの無名沼の雪渓が美しい。コルをすぎるとゴツゴツした巨岩が見え始める。しばらくするとヒサゴ沼が眼下に見える。混雑するのが嫌で4年前に訪れたきりだが、好きな場所には違いないのでまた行きたいなと思う。登山道脇の水面が美しい浅い無名沼を越えるとすぐに天沼に到着だ。去年イワイチョウがたくさん咲いていたので楽しみだったが、今年はもう終わりかけのようで少し残念だ。だが、気持ちの良い青空の下ランチタイムにする。ヒサゴのコルで足が攣る兆しが見られたので、ついでにツムラ68(芍薬甘草湯)を飲もうと思ったが、ザックの一番下にあるので出すのが面倒だと思っていたら、yahさんが「これあげますよ」と言ってくれた。他にも色々と持って来ているらしい。まるで移動薬局だ。私も持ち歩くほうだけどyahさんの種類の豊富さには驚いた。

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天沼を出発するといよいよ巨岩帯に突入する。いい経験なのでルートファインディングをしながら歩きたいと言っていたyahさんが先頭だ。最初はルートの選択方法(ピンクテープ、ペンキ、ケルン等)が良くわからないらしく、時折あらぬ方向へ進むのを後ろから訂正しながら進んでいく。それでも楽しそうだ。たまに間違えるものの、ロックガーデンを抜ける頃には自力で修正して結構まともにルートを選べるようになっていた。途中の岩場ではナキウサギも見ることが出来た。

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ロックガーデンを抜け北沼近くまで登ると、これまでに歩いていてきたルートが一望できる。いやぁ、本当に素晴らしい。昨日の悪魔のような大雪の表情が一変して天使のように見える。北沼付近ではshizuさんが偶然出会った知り合いと話をしている。我々は少し離れた場所でのんびりとトムラウシ山を眺めて休憩。北沼の湖畔にはチングルマ、ミヤマキンバイ、エゾコザクラの他、ジムカデの大群落、エゾヒメクワガタ、アオノツガザクラ、ヨツバシオガマ、イワギキョウなどが咲いていたが、4年前に見たチシマギキョウはもう姿を消していた。

南沼キャンプ指定地に着くととりあえずテントを張る。私は純正のグランドシートを使っているので、まずグランドシートをペグで打ちつけて、それにテントを引っかけて張っていくので風があっても全然大丈夫だが、二人ともサードパーティのグランドシートで、且つ、テントを張るのは初めてということで風に煽られ苦戦している。自分のを張り終えた後、「できた!」と言う二人のテントを念のためチェックすると、確かに形にはなっているが張り縄を忘れたり、緩かったり、ペグがなかったりと、かなり試行錯誤した後が見える。それらを修正して16時40分。まだトムラウシ山に登れる時間なので二人を誘って空身で登頂。十勝岳連峰は曇っていたが、それ以外は360°の絶景。

一緒に登り始めた陽気なおっちゃんは何と俵真布から登って来たという。「営林署ってお盆休み中でも鍵借りられるんですか?」と素朴な疑問を投げてみる。「彼らは夏休みとかなくて平日は平日、土日は土日」だそうだ。てっきりお盆休みは鍵を借りられないと思い込み、我々のような会社員には縁のないルートだと諦めていたが、これで来年の夏休みの計画は決まったようなものだ。登山道の様子を聞き、「登山道の登り始めがひざ下までの水たまりだった」とか、「途中の沢で熊が食事をしているところに出くわした」とか色々な話をきかせてもらった。こちらも大冒険を経験して登ってきたのでその様子も伝える。「お互い大変な思いをして登って来てこれだけいい景色を見ているんだな」と実感した一日だった。


忠別岳避難小屋(7:40)→忠別岳避難小屋分岐(7:55)→五色岳(8:55)→化雲岳(10:30←ティータイム→11:00)→ヒサゴのコル(12:05)→天沼(12:25←昼食→13:00)→北沼分岐(14:50)→南沼キャンプ指定地(15:25←テント設営等→16:40)→トムラウシ山(17:05←休憩等→17:30)→南沼キャンプ指定地(18:00)

表大雪南ルート縦走2日目 ~ヌプン小屋-忠別小屋~

朝4時30分起床。薄曇りの中、晴れ間も見え中々の状態だったが、準備をしている内に空に厚い雲が立ちこめてイヤな状態になってくる。それでもyahさんは「登れば雲の上に出て晴れますよ」と楽観的。救われるというか何というか(^^;。確かに上空の雲の動きも緩やかで、それほど荒れないかもしれないという期待を持って5時40分にヌプントムラウシ避難小屋を出発した。登山ポストの情報では先発隊がいるようだ(日付が8/12の4時30分入山になっていたが、昨日yahさんが確認した時は、この記録はなかったとのこと)。

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昨日確認した橋を渡り、沢沿いの道を登り始める。地図では徒渉点は数回しかないと思っていたが実際には何十回も徒渉を繰り返すことに...先行していたyahさんがルートが良くわからないということで先頭を変わる。登山口近くはピンクテープも多かったが、いざ沢道に入ると激減し確かにわかりにくい。途中、迷い道に入ったりもしたが、その都度遠くに見える標識やピンクテープを発見して進む。元々ピンクテープは多くあったようだが、その半数は地面に落ちたり流されたりしているようだ。100m近く目印がないこともあり不安にさせられる。

登山道は700m地点で沢本流から支流に分岐する。ここでshizuさんが腹痛を訴える。困った。腹痛なんて想定外だった。どうしようかと思っていたら、yahさんが薬を持っているというので難を逃れる。小雨も降り始めたので雨具やザックカバーを準備しつつ、shizuさんの状態が良くなるのを待って出発した。支流に入ると沢の上を歩いて行く。ここもピンクテープが少ないが左右に枝道もないのでルートは明瞭だが何となく不安は付きまとう。沢がだいぶ細くなって来た頃、「右」と書かれた看板が出現。急坂を登ると樹林帯の登山道に入る。倒木を避けつつ沼ノ原山までツラい登りが続く。まるで天人峡ルートとそっくりだ。ここで男性二人の先発隊に追い付いた。我々と同じく忠別小屋まで行く予定だったが、この雨で予定変更して、沼ノ原でテントを張ると言う。確かに彼らのペースでは忠別小屋は無理があるかもかしれないが、この天候では沼ノ原のテン場は水没する可能性があることを伝え先行する。沼ノ原山のコルから少し登ると沼ノ原の台地に出てきれいな笹の刈り払い道に出た。

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しばらく進むと前を行くyahさんが「スズさん、これどっちに行けばいいの?」と聞いてくる。どうしたのかと思って前を見たら、湿地のような広大な空間が拡がっていて驚いた。先人のブログで写真は見てたものの、こんなに広いのかと呆然とする。ガスっていてルートの入口がわからない。しょうがないので湿地の周囲をグルっと回ってルートを探すことに、shizuさんとyahさんはその場で待機してGPSアプリで位置確認をしている。とりあえず標識は見つけたが、「ヌプン・・」の文字しか読み取れず全く役に立たない。「クソっ、新得町ちゃんと管理しろよ」と悪態をつくがどうしようもない。ここでGPSに沼ノ原分岐の位置情報を登録していたのを思い出し、GPS表示を頼りに進むと熊笹に覆われた踏跡に到達した。これを行くのかと思いつつ、二人を呼び笹薮を先行する。

熊笹をダブルストックで払いながら進むに連れ、GPSの残り距離が減って来てルートが正しいことを示してくれる。ただ雨で濡れた背丈ほどの熊笹を掻き分けて進むのも大変だ。この悲惨さを是非伝えたいと写真に撮ってみるが、所詮写真が撮れるような場所はまだマシな地点で、そうでないところは笹に埋まってとても写真なんて撮っていられない。笹払いの圧力で腕は既にゴアテックスを貫通してビッチョリ。小雨の他に風も吹いていて止まると超寒い。早く抜けたい一心だったが、慣れない二人のペースが上がらず10mほど進んで停止を余儀なくされる。後続の二人にとっても、眼鏡が濡れて視界が悪かったり、笹薮に埋まった穴や石に足を取られたりと大変だったらしい。GPSの残り距離を読み上げながら、道の状態と「頑張れ!」と声を掛けて少しずつ進んで行く。

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そしてGPSの残り距離が15mを差した時に愕然とする。はっきりしていた踏跡が消えてしまったのだ。迷走した跡が至るところに点在している。そんな中、おそらくココだろうと思う少し開けた水たまりに足を踏み入れると、グチョリと登山靴がイヤな感触を捉えて大きく沈んだ。そう、ここは湿原だ。へたなルートを取るとマズい。すぐさま足を引き抜き、別ルートを探す。とは言っても迷走した跡があるだけで、それらしいものは何もない。同行の二人も心配そうに私を見ている。もうGPSの残距離15mを信じて笹の上を進むしかない。覚悟を決めて倒れて歩き易そうな笹の上を進むことにした。長い、まだ合流しないのか思って焦り始めたとき、待望のクチャンベツルートの木道が見えた。「抜けたっ!」思わず叫んでいた。二人も続いてくる。沼ノ原分岐よりも10mほど北側にずれたが結果オーライだ。先程とは反対側から分岐の様子を見て納得した。2008年に訪れた時は石狩岳方面への踏跡はしっかり確認できたが、もうすっかり熊笹で覆われている。その向こうには、最初に私が足を踏み入れた水たまりが見える。どうやら最初に選択した道が正解だったようだ。後日確認したGPSの軌跡にもハッキリと記されていた。

休憩したい気持ちもあったが、風を遮るものの少ない湿原に抜けたことで風が吹き抜け、腕が更に冷たくなってきた。このまま放って置くとマズい。「ちょっと寒くなって来たから、この先の樹林帯で休憩しよう」と二人には悪いと思ったが早々に大沼を抜けて風雨を避けられる樹林帯を目指す。しかし途中で右に折れる木道を見落として、大沼湖畔のキャンプ指定地に来てしまった。「何で?」キツネにつままれたような心境だ。最後尾のshizuさんに反転して左に折れる木道がないか確認してもらう。あった。良かった。木道は多少朽ちているがまだまだ使えそうだ。写真の樹林帯で乾いたインナーを着て一段落。完全に冷え切った腕にも体温が戻る。危なかった。低体温症ってこうやってなっていくんだ。

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樹林帯で休憩した後はクチャンベツ川源流まで結構な急坂を登っていく。yahさんはかなり辛そうだ。時間はまだ12時前。予定した時間より30分ほど遅れているが十分余裕はある。「いいよ、ゆっくり行こう」と声を掛け一歩一歩登っていく。急坂を登り切った後、時間を掛けてクチャンベツ川源流に到着。これに沿って南側に付けられた登山道を登っていく。花がとてもきれいに咲いているが、もう全員足を止めて花を見たり写真を撮ったりする余裕はない。そんな中、エゾコザクラの白花を一輪見つけた。足を止めて「これは珍しいから」と声を掛けて写真を撮る。思えばこの後、五色岳山頂に着くまでで皆が笑顔を見せた最後の瞬間だったかもしれない。もうレンズが結露して拭いても拭いても曇ってしまってまともな写真が撮れない。カメラ本体も結露してアイセンサーが誤作動、液晶画面が使えず重い荷物を背負ったまま腰を屈め、ファインダーをのぞいて撮影した。1日目の行程で写真を撮るのはこれが最後になった。

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2008年に訪れた際の記憶から、五色ヶ原に出れば多少のハイマツ漕ぎはあるものの、緩やかな木道が続くため一気に抜けようと考えていた。風雨も強まって来たため「少しペースをあげよう」と言ってみたものの現実は過酷だった。以前よりもハイマツも熊笹も手強く成長し、木道のない区間はまた薮漕ぎに。木道自体も熊笹に完全に覆われて途中でyahさんが木道を踏み外したり危険なシーンが続く。yahさんはもう眼鏡が完全に濡れて見えないらしい。危険なので私が先行し危険箇所の状態を伝え、熊笹が木道を覆っているところではストックを前に突いて木道の位置を確認しながら進むように指示を出す。shizuさんは最後尾を黙々と登ってくるがペースは確実に落ちてきている。もうみんな一杯一杯だ。こんな所で休みたくないが、疲労が蓄積して動けなくなるともっとマズいと思い、風が辛うじて避けられるハイマツの影を見つけて、一旦、小休止にする。5分も休憩してないが、それでも随分と回復したようでペースが上がった。これなら何とかなりそうだ。現在位置を確認して残り距離を伝えつつ先行する。五色岳近くの、昔、水を汲んだ記憶のある場所も見えてきた。「もう15分ほどで山頂!頑張れ!!」とそれを伝える。しかし山頂付近でまた道がわからなくなる。二つに分岐していて一つは沢のように水が流れて来ている。もう一方はハイマツの中だ。自信はなかったが「迷った時は沢沿いは避ける」という自分のポリシーを徹底してハイマツを選択した。正解だった。すぐに次の木道が見えてくる。「もうすぐ!」、「もうすぐ!!」と声を掛けて山頂目指して登る、最後にハイマツを越えると見覚えのある五色岳の岩場が目に入った。実際に歩いた時間は言った通り15分ほどだったが1時間ほどにも感じた。

風雨が強い五色岳山頂はスルーして低木のトンネルになっている忠別小屋へのルートに入って腰を落とす。ここなら落ち着いて休憩できる。助かった。yahさんもすぐ着いてきた。ただshizuさんが来ない。ヤバイ。五色岳を通り過ぎて化雲のほうに行っていたらどうしようと思ったら姿が見えた。「おーい、こっちこっち」と叫んで呼び寄せる。後日聞いたら分岐標識の写真を撮っていたとか...人が心配しているのに随分と余裕だな、おいっ(^^;。低木のトンネル内でしばらくグッタリと休憩。思えば昼食も食べていない。それでもみんなお腹は空いてないとのことだ。確かに精神的にそれどころではなかった

休憩後、忠別岳避難小屋を目指す。避難小屋への分岐が見えて来た頃に急にお腹が鳴った。目的地が間近ということで身体のほうも安心したらしい。小屋に入ってからもトラブル発生。電子機器類がことごとく死亡した。NIKON1はファインダーがくもり、メカニカルシャッターが下りなくなってしまった。GPSは電源が切れず、携帯電話は電源が入らない。暖かい小屋の中に入って一気に結露したようだ。まぁ、無事に辿り着けたことを思えば軽い代償かと思いつつ、明日からの山行で写真が撮れないことが気がかりに思い、電子機器類をシュラフの中に入れ、温めつつ一夜をともにした。


ヌプントムラウシ避難小屋(5:40)→ヌプントムラウシ登山口(6:00)→石狩岳分岐(10:00)→沼ノ原分岐(10:40)→大沼キャンプ指定地(10:50)→五色の水場(11:40)→クチャンベツ川源流出合(12:25)→五色岳(14:35)→忠別岳避難小屋分岐(15:20)→忠別岳避難小屋(15:35)

表大雪南ルート縦走1日目 ~ヌプントムラウシ避難小屋前泊~

8月12日(日)から4日間、yahさん、と表大雪の南端、ヌプントムラウシ温泉から沼ノ原を越えて五色岳、化雲岳、トムラウシ山に至るコースをぐるっと一周する計画を立て、数日前にshizuさんも参加することになり、1日目は前泊地のヌプントムラウシ避難小屋を目指します。

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札幌でshizuさんをピックアップして9時に出発、その後、yahさんと道東道キウスPAで合流。車2台でまずは私の提案で十勝清水の「目分料」(そば屋)に向かいます。しかしながら着いてびっくりの大混雑ぶり。あきらめて新得に移動し、yahさん提案の「みなとや」で昼食にします。こちらも人気店らしくて20分ほど待ちましたが居間のような落ち着いた部屋で美味しい蕎麦を頂きました。駐車場がないので新得駅の駐車場を使わせてもらいました。

新得からは道道718号忠別清水線に入り、トムラウシ短縮コース登山口に向かいます。ん?忠別?と疑問に思って帰ってから調べてみたら、この道道も大雪山縦貫道路の一部で、俵真布側に片割れが確認できました。私の大好きな十勝岳連峰をトンネルで串刺しにする計画だったようで、そんなものが実現しなくて本当に良かったと思います。

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林間部に差しかかった頃、エゾライチョウがトコトコと道路を歩いているところに出くわしました。写真が少しブレましたがメスでしょうか? この鳥、未だに狩猟鳥の対象となっているようですが、大雪山系が鳥獣保護区に指定されているおかげか、人間に対して警戒するそぶりもなく、のんびりと道路を歩いている様子が観察できました。

トムラウシ温泉を越えてユートムムラウシ林道に入ると、3年前と比べると随分と道路の侵食が進んでいます。中には10cm程度の段差になっている箇所もあり、あこは問題なく通過したものの、yahさんのプリウスは相当苦戦を強いられました。そんなわけでトムラウシ短縮コース登山口に着いた頃には、もう15時近く。急いで荷物をあこに積み替えてヌプントムラウシ避難小屋に向かいます。ヌプントムラウシ林道は比較的侵食も少なくて30~40km/hで走行できましたが、それでも小屋に着いたのは16時過ぎと思いのほか時間を費やしてしまいました。

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昨年秋の大雨の影響で登山口の橋が心配だったので、事前に新得町に確認したものの「流されたという報告は入っていません」という曖昧な回答だったのもあり、荷物を小屋に置いてた後、通行止が続く林道沿いにヌプントムラウシ登山口の様子を見に行くことにします。道路状態は歩くには問題ないですが、沢状に分断されたり、クラックが入ってたりと惨澹たる状態で、もう林道として復旧することはないんじゃないかという気がします。15分ほど歩くと立派な看板と登山ポストが見えて来ました。

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橋も健在です。ワイヤーで岸に固定された立派な橋です。試しに対岸に渡ってみました。木の皮が浮いて多少フワフワしますが頑丈そうです。対岸からは沢沿いにピンクテープが続いています。登山道も問題ないようです。

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まずは心配事が一つ減ったということで安心して小屋に戻って食事、そして温泉タイムです。小屋は2F建てで窓には網戸が取付られて虫の心配もありません。ただトイレのアンモニア臭が殆ど試薬レベルと言っても過言ではないほど著しく、座っての用足しでは目や喉が痛くなるほどで正直危険を感じました。温泉は立派な作りで、源泉と川の水をバルブを使って調整して入ります。湯を足そうとして温泉側のバルブをひねったら熱湯が出てきてやけどしそうになりました...お気をつけあれ(^^;。風呂から眺める西側の空には夕焼けが拡がっています。予報は雨だけど、明日もいい天気になるといいなと希望的観測をしながらヌプントムラウシ温泉の夜は更けていきました。

愛山渓倶楽部~愛別岳

前日予報だと全道的に天気は良好ということで、東大雪の石狩岳に行くつもりで朝2時に起床したものの、念のため天気予報を確認したら十勝方面の天気が今一つに...そこで予報の良かった旭川方面にの山ということで、去年、登頂できなかった愛別岳(http://www.saboten.sakura.ne.jp/~suzu/cgi-bin/diarypro/archives/81.html)に行くことにしました。

元々東大雪に行くつもりだったので余裕綽々です。朝6時30分には愛山渓倶楽部に到着して出発します。駐車場の車はそれほど多くないようですが、既に7組ほどの先発隊がいます。今回は、まだ通ったことがなくて永山岳へのアクセスが良さそうな沢沿いのルートにします。曇天の上、上空にはガスが掛かり、鬱蒼とした暗い林の中を歩きます。巨大に成長した水芭蕉の葉が不気味さを際立たせています。そんな中でも花が咲いていて、モミジカラマツがとても多く見られました。

三十三曲分岐を超えると沢沿いに高巻して進んでいきます。たまに、渡渉がありますが、岩伝いに特に苦になるような感じでもないです。沢沿いではエゾノリュウキンカ、チシマノキンバイソウなどが見られました。分岐を過ぎて沢沿いを進んでいくと昇天の滝が前方に見えてきます(写真)。いや、なんというか秘境を行く探検隊のような印象です。地図を見ていると昇天の滝のそばを通るのかと思いきや突然登山道は右に折れて再び林の中です。すると目の前にまた滝が現れました。一瞬、方向感覚がわからなくなりましたが、先程とは別な滝、村雨の滝だそうです。この滝の脇を登って行くロープ場を2つ超えて、しばらく行くと滝ノ上分岐です。ロープ場の岩は結構滑りやすいので素直にロープにつかまりました。

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滝ノ上分岐から比布・北鎮方面も、しばらくは高い熊笹や低木が多くて鬱蒼とした感じが続きますが、時折、開けて景色が拡がります。沼ノ平が見えました。向こうは晴れてきつつあるようです。このあたりではウコンウツギがきれいでした。標高1600mまで登って行くとナキウサギの「ピチッ」と言う声が聞こえます。偶然にもハイマツの間の小さな岩場でジーっとしているところを目撃しました。同じペースで登っていた女性と一緒に観察です。フレームにもきっちり収まってくれました。今日は比較的涼しいから外に出てきてくれたんでしょうか?

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標高が1700mを超えると見事な原生花園が拡がります。先週見たいといっていたチシマツガザクラの大群落がありました。登山道周囲がチシマツガザクラで白くなっています。コマクサやミヤマリンドウ、エゾヒメクワガタ、イワギキョウ、ヨツバシオガマなども咲いていました。驚いたのはこんなに高い稜線でエゾカンゾウが咲いていたことです。大雪山系でエゾカンゾウを見たのは、高根ヶ原以来です。ちなみに銀明水は涸れています。更に標高を上げると季節を遡るように、綿毛だったチングルマが咲いてきます。三本枝だけになっていたエゾノハクサンイチゲも見事に復活です。

ここまでの区間、花のあるところで止まっては撮影の繰り返しで、全然進みません。永山岳に着いた頃には既に10時20分になっていました。時折ガスが取れるものの、中々晴れてこないので半ばあきらめムードで昼食にします。こんな天気では誰も愛別まで登ってないだろうし、もうここで引き返そうかと思っていたら、偶然、愛別岳に行くという旭川の男性と出会いました。念願の同行者の出現にかなり前向きな気持ちになり、先に行くと言って出発した彼を追いかけて愛別岳分岐まで行ってみます。分岐で彼と合流...真っ白な雲の中に向かう断崖の道を見てお互い躊躇しますが、ここまで来たのだから行くだけ行ってみようということで合意...

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不幸中の幸いか、プチ高所恐怖症の私にはありがたいことに、20mほどしかない視界のおかげで、あの谷底に落ちていくような風景が全然見えなくて恐怖感はほぼゼロ。同行者がいるのも心強く、風も穏やかで、前回引き返したポイントを知らない間に通過して、ピークへの登りに取り掛かります。先人のブログで右巻きで行くという情報を得ていたので、それらしい踏み跡をたどります。標高差は大したことないのに結構な急斜面が続き息が切れます。もう終わりかと思って斜面を登ると、また次の斜面が出てきて全然終わりません。もうダメと途中で休憩したところは、山頂から50mほど手前でした(^^;。休憩中に地図を見てそのことに気付き、「だったら進もう」と小休止に留めて出発、ここから先は大した斜面もなく愛別岳のピークに到着。そして記念写真を撮ってもらいました。もちろん背景は真っ白ですが(^^;。

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彼は昼食、私はティータイムということで、山頂の巨岩に腰を落ち着けて話しながら過ごします。ナキウサギがトコトコと通り過ぎました。単独だと何とも落ち着かないガスの中の山頂も、同行者がいると全然のどかに感じます。本当に彼に感謝したいと思います。

そのまま下りも共に降りました。途中、不明瞭な安足間岳のピークらしき最も標高の高い点を踏んで元来た道を戻ります。帰りは三十三曲から降りようかとも思いましたが、沼の平まで登る元気ががなかったのと、彼の靴が愛別の岩場で破けてしまったため、水たまりの少ない沢沿いのルートで行くことにして、また鬱蒼とした林の中を延々と歩いて下山しました。

愛山渓倶楽部(6:25)→登山口(6:30)→三十三曲分岐(6:55)→滝ノ上分岐(7:50)→銀明水(9:35)→永山岳(10:20←昼食→11:00)→安足間岳(11:15)→愛別岳分岐(11:20←考え中→11:25)→愛別岳(12:00←ティータイム→12:30)→愛別岳分岐(13:10)→安足間岳ピーク(13:20)→永山岳(13:40)→銀明水(14:00)→滝ノ上分岐(15:00)→三十三曲分岐(15:40)→登山口(15:55)→愛山渓倶楽部(16:00)

今回のあこの燃費:14.1km/L