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表大雪南ルート縦走3日目 ~忠別小屋-南沼テン場~

朝4時30分起床。昨夜は高ぶった精神を落ち着けるために「柴胡加竜骨牡蛎湯」を飲んで寝つきは良かったものの、トタン屋根が強風でドンと大砲のような音を立てたのをきっかけに目が覚めて、それ以降はあまり眠れなかった。一応、外を見てみるが霧雨が降っている。昨日の雨でザックの中まで濡れ、乾いた予備の衣類がない中で進むのは危険で、予備日を使って停滞することも考えたが、ここで衝撃の事実を知らされる。shizuさんは予備日を設定していなかったようだ。何とまぁ悪いことが続くことか...南沼キャンプ指定地までの道はロックガーデンで迷い易く、2009年のトムラウシ山遭難事故の原因となった風を避ける場所も少ない。経験的に晴れるなら7時ぐらいに兆しがあるハズだが、最悪の場合はshizuさんにはルートが明瞭で安全性も高く、管理人のいる山小屋、公共交通機関も使える黒岳ルートから下山してもらうことも伝える。まぁ、何と朝から険悪なムードだろう。yahさんも微妙な空気を察知してルートの変更計画を色々と提案してくるが、着替えもなく晴れる兆しもない以上、南下ルートで移動するつもりはなかった。最終的には「命と仕事、どっちが大事だ!よく考えろ!!」と言うつもりでいたが、幸運なことに6時30分を過ぎた頃に小屋の外が明るくなる。時間は短かったが確実に雲が薄くなって来ている証拠だ。これなら行けそうだ。

さてもう一つの懸念事項は電子機器だ。GPSと携帯電話は一晩体温で温めて復活したが、カメラ(NIKON1)のほうは試しにシャッターを切ってみたら、メカニカルシャッターが下りたまま動かなくなってしまった。当然ファインダーも真っ暗だ。ダメ元で電源ボタンやシャッターボタンを繰り返し押していると、偶然、イヤな音と共にシャッターが開きセンサーが見えた。ミラーレス構造なら電子シャッターに切り替えれば撮影可能かもと試しに撮ってみる。撮れた!やった!! 相変わらず液晶画面は誤作動で使えず、ファインダーも曇ってフォーカスが合っているのかもわからないが、NIKON1の優秀なAFを信じて撮影するしかない。撮れるだけでもありがたいというものだ。

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7時40分。微妙に霧雨が降っているが、最初に空が明るくなる現象を確認してから複数回同様の現象を確認したので、それを信じて忠別岳避難小屋を出発する。忠別岳避難小屋分岐を過ぎ五色岳方面に進んだ辺りで五色岳の稜線が見えるようになった。振り返ると忠別岳も見えている。いいぞ。行ける。五色岳に着いた頃には、昨日悪戦苦闘した沼ノ原が見えるぐらいに天候が回復してきた。昨日スルーした五色岳でしばし休憩してから化雲岳へと向かう。天候はどんどん良くなってくる。途中のハイマツ帯ではトムラウシ山が完全に雲から抜けた。

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化雲平に入る頃にはすっかり晴れ、安心して「今日の私は役立たずになる」と宣言して、パーティから一人離脱して化雲平の花々の写真を撮りながらのんびりと進むことにする。昨日乾かなかった衣類もザックに縛って乾かす。化雲平の私のお目当てはエゾウサギギクとリシリリンドウ。他にもタカネトウウチソウ、エゾウメバチソウ、ヨツバシオガマの他、アオノツガザクラやハクサンボウフウ、ミヤマアキノキリンソウの大群落も見られた。ふと前を見ると先行していたshizuさんはもう化雲岳への登りに取り掛かっている。700m近く離れている。これはマズイと思いつつ、目的の花も撮れたことで上機嫌で一気に距離を詰める。そんなに二人を待たせることなく化雲岳山頂に到着。化雲岳は私が登山を初めてから表大雪で最初に踏んだピークで何度来ても感慨深い。二人には「化雲岩の右側から上に登れるよ」と事前に伝えてあったので、登って見たか聞いてみたら「無理!」との返事が...高所恐怖症の私はもちろん無理ですが、やはり普通の人でも恐怖を感じる高さでしたか(^^;。

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化雲岳で休憩した後は天沼を目指す。沼のほとりの木道に腰を掛けて昼食にする予定。途中、ヒサゴのコル近くの無名沼の雪渓が美しい。コルをすぎるとゴツゴツした巨岩が見え始める。しばらくするとヒサゴ沼が眼下に見える。混雑するのが嫌で4年前に訪れたきりだが、好きな場所には違いないのでまた行きたいなと思う。登山道脇の水面が美しい浅い無名沼を越えるとすぐに天沼に到着だ。去年イワイチョウがたくさん咲いていたので楽しみだったが、今年はもう終わりかけのようで少し残念だ。だが、気持ちの良い青空の下ランチタイムにする。ヒサゴのコルで足が攣る兆しが見られたので、ついでにツムラ68(芍薬甘草湯)を飲もうと思ったが、ザックの一番下にあるので出すのが面倒だと思っていたら、yahさんが「これあげますよ」と言ってくれた。他にも色々と持って来ているらしい。まるで移動薬局だ。私も持ち歩くほうだけどyahさんの種類の豊富さには驚いた。

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天沼を出発するといよいよ巨岩帯に突入する。いい経験なのでルートファインディングをしながら歩きたいと言っていたyahさんが先頭だ。最初はルートの選択方法(ピンクテープ、ペンキ、ケルン等)が良くわからないらしく、時折あらぬ方向へ進むのを後ろから訂正しながら進んでいく。それでも楽しそうだ。たまに間違えるものの、ロックガーデンを抜ける頃には自力で修正して結構まともにルートを選べるようになっていた。途中の岩場ではナキウサギも見ることが出来た。

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ロックガーデンを抜け北沼近くまで登ると、これまでに歩いていてきたルートが一望できる。いやぁ、本当に素晴らしい。昨日の悪魔のような大雪の表情が一変して天使のように見える。北沼付近ではshizuさんが偶然出会った知り合いと話をしている。我々は少し離れた場所でのんびりとトムラウシ山を眺めて休憩。北沼の湖畔にはチングルマ、ミヤマキンバイ、エゾコザクラの他、ジムカデの大群落、エゾヒメクワガタ、アオノツガザクラ、ヨツバシオガマ、イワギキョウなどが咲いていたが、4年前に見たチシマギキョウはもう姿を消していた。

南沼キャンプ指定地に着くととりあえずテントを張る。私は純正のグランドシートを使っているので、まずグランドシートをペグで打ちつけて、それにテントを引っかけて張っていくので風があっても全然大丈夫だが、二人ともサードパーティのグランドシートで、且つ、テントを張るのは初めてということで風に煽られ苦戦している。自分のを張り終えた後、「できた!」と言う二人のテントを念のためチェックすると、確かに形にはなっているが張り縄を忘れたり、緩かったり、ペグがなかったりと、かなり試行錯誤した後が見える。それらを修正して16時40分。まだトムラウシ山に登れる時間なので二人を誘って空身で登頂。十勝岳連峰は曇っていたが、それ以外は360°の絶景。

一緒に登り始めた陽気なおっちゃんは何と俵真布から登って来たという。「営林署ってお盆休み中でも鍵借りられるんですか?」と素朴な疑問を投げてみる。「彼らは夏休みとかなくて平日は平日、土日は土日」だそうだ。てっきりお盆休みは鍵を借りられないと思い込み、我々のような会社員には縁のないルートだと諦めていたが、これで来年の夏休みの計画は決まったようなものだ。登山道の様子を聞き、「登山道の登り始めがひざ下までの水たまりだった」とか、「途中の沢で熊が食事をしているところに出くわした」とか色々な話をきかせてもらった。こちらも大冒険を経験して登ってきたのでその様子も伝える。「お互い大変な思いをして登って来てこれだけいい景色を見ているんだな」と実感した一日だった。


忠別岳避難小屋(7:40)→忠別岳避難小屋分岐(7:55)→五色岳(8:55)→化雲岳(10:30←ティータイム→11:00)→ヒサゴのコル(12:05)→天沼(12:25←昼食→13:00)→北沼分岐(14:50)→南沼キャンプ指定地(15:25←テント設営等→16:40)→トムラウシ山(17:05←休憩等→17:30)→南沼キャンプ指定地(18:00)

コメント一覧

yah URL 2012年08月17日(金)23時27分 編集・削除

今にして思えば、経験の浅い僕は天候に対してやや楽観的だったかもしれません。
終始「なんとかなるだろ」と考えてました。さすがに嵐の中に飛び出していくようなバカなことはしませんが・・・。

それにしてもこの日の後半からの天気は本当によかった。
化雲平以降、ずっと気持ちよく歩けました。
初めてのテント設営もおかげさまで何とかなったし、トムラウシ山頂からの景色もよくて、いい1日でした。

天気によって悪魔にも天使にもなる、そんな山の性格を身を持って分かった気がします。
あののどかに歩いた天沼周辺も、悪天の時は大変なんだろうなぁ・・・。

俵真布から来たおっちゃんは陽気なおっちゃんでしたね。面白い話が聞けて楽しかったです。お互い苦労して登ってきたというだけで共感湧きますしね。

南沼キャンプ地はいい場所です。

スズ(管理人) 2012年08月18日(土)09時19分 編集・削除

yahさん、こんにちは。
天候の予測は本当に難しいですね。
通常なら14日早朝の天候でも十分歩けましたが、
今回はすべてのものが濡れていたので、
雨が降らなくても風だけでやられてしまう恐さがありました。

予想的中で晴れてくれて本当に良かったです(^^)
こういうことがあるから山はやめられません。
俵真布のおっちゃんのブログとかも見たいですね。探してみます。
南沼は大雪屈指のキャンプ指定地です。寒いのが難点ですが(^^;。

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